日常であった事とか拍手のお返事を載せていくと思います
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サモンナイトでアヤカシです。
一応ネタバレを含むといいますか。夏星の書くssは大体ネタばれ込みですけど。一応注意を。
夢みたいな本当の話。
私、樋口綾(ひぐち あや)は夕暮れに染まる公園で、切ないぐらいに胸を締め付ける悲しい声の、助けを求める叫びを聞いた。
その声に、最初は戸惑い、驚いたけれど、声の主が苦しそうで、まるで泣いているかの様に感じると、焦りと不安が広がって、何とかしてあげたいと、いてもたってもいられなくなり、貴方は誰です! と叫んだ次の瞬間。
私は異世界へと召還された。
きっと誰も信じない。
だけど、本当の話。
私はそこで、数え切れないぐらいの冒険と、心を預けられる大切な仲間たちに出会った。
そして。
たすけて、と叫んでいた誰かを見つけた。
私を呼んだその人は。
明るい笑顔と、幅広い召還術の知識を持った、私と同い年ぐらいの女の子だった。
笑いながら嘘を吐いて、不意に泣きそうに顔を歪めても、どこかで笑おうとする、目の離せない人だった。
笑顔なのに壁を感じて。
お出かけに誘ったら「デート?」なんてちゃかされて、苦手だと思いながらも、気がついたら慣れていて。
ふと視線を向けると、怖いぐらい真剣な表情で俯いている事もあった。
それが、不安と戸惑いを生むのに、どうしても彼女に不信感は抱けなくて、自分でも不思議なぐらい、彼女には心を開けた。
そして、最後の最後にも、ちゃんと笑ってくれた。
『アヤ』
って、優しく呼んで。
明るい月の下で、心からの笑顔を見せてくれた
「カシス、さん」
だから、なのだろうか?
私は、最後に見た彼女の笑顔。必死に笑おうとして、でも泣いている様にも見えたあの顔が。
酷く胸に残って。
それを思い返すといつも、私は静かに涙を零していた。
言葉にできない、暖かで甘い、初めて感じる、どこか切ない疼きを胸に抱いて。
――――――。
それからの事。
私は元の世界に戻ってから、ただ一つの事を、延々と願い続けていた。
会いたい。と。
貴方に会いたい、と。
そう、ずっと願った。
日常生活に支障が出るぐらいに、私はいつも、気づいたら願っていた。
朝目が覚めると、彼女が起こしに来てくれる気がした。だけれど彼女が来ないと知ると、寝坊をしているんだなと苦笑して、起こしに行ってあげなくちゃと思って。
……寝ぼけて、それは出来ないのだと思い出して、ぽとり、と涙を落とした。
登校途中、彼女の髪型に似た人を見かけると、呼吸が止まり、全身が震えて。……落胆する。
綾、と親しい友達から名を呼ばれる度に、彼女の『アヤ』の響きと違うって、片隅で悲しくて。
誰かの笑顔を見ても、彼女と比べてしまって。
食事中も授業中も夢の中でさえ。彼女を思い出す。
もう決して触れられない、会える筈がない彼女の事ばかりを考えて、涙腺が壊れた様に、人前である事も忘れて、ぼろぼろと泣いてしまった事さえある。
情緒不安定。
悩みがあるのか? なんて優しい人たちに心配されるたびに、申し訳なくて。
だからその度に、彼女に恥ずかしくない様に頑張らなくちゃと、自分を奮い立たせて、少しだけ前より明るく大人になれた気がして。
私は、前よりもずっと強くなっていると実感していた。
なのに。
あぁ、でも。
関係ない。
会いたい。
彼女との、出会いがもたらしてくれた私という人間は、いつの間にか酷く駄目なものになっていた。
そして、それに私が気づいたのは、本当に手遅れになった後で。
……私は、樋口綾は、カシスさんがいないと、駄目になっていたのだ。
そんな大事な事に、いつも一緒にいたから気づけなくて。満たされていたから目を向けられなくて。
前よりも日常に溶け込みながらも、胸に決して満たされないものを抱えて。
私は今日も、何時も通りを装って笑っていた。
いつか。
いつかこの痛みと喪失感に、慣れる事があるのだろうかと、心の中、一人静かに、最初の頃の彼女の様に泣きながら。
――――――そして。これは奇跡。
誰に話しても首を傾げられそうな、信じられない奇跡。
私にとって、何よりも大切な奇跡。
ざわざわと、騒ぐ教室。
大きな音と悲鳴に、隣のクラスからの野次馬も見える。
先生が、普段は声高に注意する口を唖然と開けて、何が起きたのか理解できないようにたたずんでいる。
私は、ざわめく教室でただ一人、彼女の視線に捕らえられていた。
そして、静かに、泣きながら笑っていた。
「………ぁ」
声が、出ない。
突然、この教室に現れたとしか思えない。その少女は微笑んでくれた。
彼女は、私の瞳を潤んだ瞳で見つめながら、言ってくれた。
『会えたよ 約束した通り、またキミと会えたんだ……』
って。
私の大好きな笑顔を浮かべながら。そう、言ってくれた。
その言葉が、ようやく全身に広がり、その言葉の意味を、ぐしゃぐしゃと制服を握りながら、私は実感した。
砂地に水が染み渡る様に、その場で気絶しそうなぐらいの満足感と喜びを胸に。
会えたんだ、って。
「カシス、さん……ッ!」
気がついたら、私は駆けていた。
いまだ教室の床に座り、立てないのだろう彼女に覆いかぶさる様にして抱きついた。
彼女の小さな背中に、すがり付く様に腕を回して首筋に顔を埋めると、懐かしい、リィンバウムと、彼女の香りを一緒に感じられた。
「ただいま。アヤ」
「……ふっ…っ……くっ……ふえ……」
「遅くなって、ごめんね」
顔を上げて、泣き顔のまま首を振ると、カシスさんは私に負けないぐらい、へらへらって笑いながら泣いていて。
私は、彼女を強く抱きしめた。
愛しさが溢れて、溺死しそうだった。
背中に感じる、事情を聞こうとする声や好奇の視線すらどうでもいい。
そんな些細な事が、全てが取るに足らない、何とでもできるものだと私は深く実感していた。
だって、この腕の中に彼女がいる。
会いたかった彼女が、誰あろう私なんかの腕の中にいてくれる。
これは、夢ではない現実で、だからこそ、私は、樋口綾はこの場の誰よりも、幸福で、無敵だった。
それは、そんな私の奇跡の話。
そして奇跡は続き。
私は今、どうやって彼女を学園に転入させて、スクールライフを送ろうかと、そんな幸せな悩みを抱えながら、ふにゃふにゃと猫の様に眠る彼女に膝枕をしている。
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